日本版第一巻
日本版第二巻
日本版第三巻
本書概要
- 撮影
- 1997~2007年
- 出版
- 日本版 世界百名瀑 第一巻(アフリカ オセアニア)
2007年5月(定価38,000円)小学館
- 日本版 世界百名瀑 第二巻(北アメリカ 南アメリカ)
2007年8月(定価38,000円)小学館
- 日本版 世界百名瀑 第三巻(ヨーロッパ アジア)
2007年12月(定価38,000円)小学館
■世界百名山同様、歴史の評価に耐える百名瀑にするため、世界的に有名な滝の研究家を網羅した選考委員会を立ち上げた。アメリカ3人、アイスランド2人、オランダ1人、ドイツ1人、ペルー1人の計8名である。まず、アメリカのディーン・ゴス氏が選んだ地球上の25,000名瀑のリストから31力国に点在する154滝を選び、白川が11年かけてすべてを撮影し、最終的に白川自身が100滝に絞り込んだ。百名山同様、地球上の名瀑を50名瀑以上実際に見た人間は白川以外になく、しかもすべての滝について地上からだけではなくヘリコプターにより上空360°からあます所なく観察した唯一の人間であるため、選考委員会も最終決定は白川に一任した。世界の百名瀑確定も歴史上初めてとなる前人未到の偉業といえる。
収録作品
ヴィクトリア滝黎明
イグアス滝にかかる満月の虹
ナイヤガラ馬蹄滝
天空のヨセミテ滝
那智の滝
本書序文
自然保護は喫緊必須
エジンバラ公 フィリップ殿下
地球上のすべての生命にとって水はなくてはならないものです。水は瓶に入れたり、蛇口から汲んだりすることもできますが、今回の写真集のすばらしい写真のように、偉大な山々や森林と同じくらい水はドラマチックな姿にも変わりうるものなのです。海や海岸の水は恐怖をも感じさせますが、滝になると水は美しい芸術作品を創り出しうることを示しています。
白川義員氏はすでに、息を呑むような作品を数多く出版されています。彼の最新作である3巻の写真集「世界百名瀑」も、これまで同様に見事な秀作です。こうした自然の驚異を現場で目の当たりにできる人は限られておりますから、この本を鑑賞した幸運な人々は必ず大きな感動を覚え、私たちが住んでいる地球という惑星の真のすばらしさにいっそう感銘を深めることになるものと確信しています。そして、これらの魅惑的な滝にはそれに ふさわしい敬意と保護が保証されるべきという喫緊必須の課題が、今回の写真集を通じて伝わってくれれば幸いと思います。
(2007年3月7日)
エジンバラ公フィリップ殿下(1921~ )英国エリザベス女王の夫君。16年にわたり世界自然保護基金総裁をつとめ、現在も名誉総裁として、環境保護のリーダーとして世界的に活躍している。
「世界百名瀑」撮影趣旨
「世界百名瀑」は、「アルプス」「ヒマラヤ」「アメリカ大陸」「聖書の世界」「中国大陸」「神々の原風景」「仏教伝来」「南極大陸」「世界百名山」に続く私の“地球再発見による人間性回復へ”シリーズの第10作であります。“地球再発見”には複数の意味があり、まず第一に、我々が棲む地球がまさにかけがえのない奇跡の惑星である事を再発見、再認識しようとすることにあります。地球は何10億光年という悠久無限の宇宙にあってケシ粒のごとき一点の存在でしかありません。そして我々にはこのケシ粒以外に生存できる星はないのです。地球は全人類を乗せて無限の宇宙を浮遊する一点の命の宇宙船にすぎず、運命共同体である事実を心底認識したなら、民族紛争や国境紛争や戦争そのものが馬鹿らしくなりはしないか、そこまで思いが到る程の写真が撮れないか‥‥‥。それが私のいう“地球再発見”の第一の意味であります。そして、このケシ粒がいかに鮮烈で荘厳で神秘な美しさに満ちていることか、その感動をあらゆる人々に紹介することによって一点の命の運命共同体の将来を考えてみたい。それが40数年前の作品集「アルプス」からスタートした私の“地球再発見シリーズ”の第一の目的であります。
2000年10月天才物理学者といわれるスティーブン・ホーキング博士が地球環境がこのままのスピードで悪化すれば1000年以内に人類は絶滅すると発表し、大きく報道されました。残念ながら人類滅亡がある種のリアリティを持って語られる絶望的な時代に、我々が生を受けている事実を認識しなくてはなりません。
さて、第二に、自然や風景は地理学上の対象ではなく、そこに棲む人間の歴史的な精神のパースペクティブ上にあるとするのが私の思想であります。でなければ、祖国という概念は成立し得ません。その土地や風景と切るに切れない精神の交流が生じるから故郷となり祖国となるのであって、随意に旅した他国の土地や風景に祖国を感じないのは、その風景と精神的なつながりが無いからであります。この点からも、自然や風景は人間にとってただの“物”ではないことが理解できるのであります。
300万年昔、我々の祖先である猿人がこの惑星に現われて、彼らは自然が演じる壮大なドラマ、太陽や月や星や、雲や霧や嵐や雷鳴や、その森羅万象に凄絶な感動と深遠な畏れを持ったに違いないのです。そして、彼らは自然とその背後の宇宙に遍満する偉大な精神の存在を感得するに至りました。人間の力や思考など及びもつかないはるかに超えた偉大で巨大な精神の存在、一言で言うなら神、天と言ってもいい、偉大な霊性といってもいい、その存在に彼等は畏敬の念を持ち、敬虔の祈りを捧げたのであります。つまり彼等に原始宗教が生じたが故に、彼等に偉大な精神革命が起こってサルがヒトになったとするのが、私の基本思想であります。アインシュタインはサルがヒトになった理由を「宇宙の秩序と統一とに対する根本直感にもとづく畏敬の感情である」としております。彼は相対性原理を発見する過程で宇宙が1分の狂いもない秩序と完壁に統一されている不思議に驚愕したのではないでしょうか。私も全く同一思想です。そして今日核兵器にしてもバイオテクノロジーも、環境問題も、人間が作り出した文明に、人間みずからが支配されるやもしれぬ、恐ろしい世の中になりつつある事実を誰しも否定できないでありましょう。だからこそ人間の魂の復活、人間の理性や知性や良識の復興、つまり人間性の回復が、これほど切実に叫ばれる時代は人類の歴史上かつて無かったのであります。今こそ精神革命を起こした“人間”の原点に回帰しない限り、そう遠くない将来、人類という種は地球上から絶滅するであろうことを恐れているのです。ですから私はこの40年間終始一貫して原初の風景を撮り続けて参りました。「原初の風景」とは私の造語でありますが、鮮烈、荘厳、神秘に満ち、かつ崇高な霊気を放射し、その風景を見た人間に凄絶な感動と深遠な畏れや宗教的畏怖を覚えさせ、理屈を超えて宗教心や信仰心を持たせずにはおかない風景を指します。もとより、私の写真がつたない表現であることは百も承知の上で、なおかつ宗教心と宗教的自制心を持つことの重要性を、写真集と写真展で人々に訴え続けて参りました。そしてこれが"地球再発見による人間性回復へ"という私の仕事における基本理念であります。
「世界百名瀑」撮影の第三の目的。それは今日、毎年400万人もの人々が水不足で亡くなっている事実です。今、人類にとって最も重要なものは水です。もう油ではありません。油も数十年後に枯渇するだろうといわれていますが、その前に水が無くなるのです。2025年には世界の人口は80億を超え、世界各地で水を争奪する戦争が始まるといわれています。今日でも既に領土戦争もあれば宗教戦争も民族戦争もあり、その上に水を争奪する戦争が加わることは耐えがたいことです。私はこれまでに143カ国を撮影取材し戦禍の跡も実際に見て参りました。それはことごとく民衆が受ける筆舌に尽くしがたい悲惨と凄惨極まりない実態でした。戦争こそは人間の最悪の悪業です。私自身昭和16年に国民学校に入学し、戦争前夜から戦争中、我が家は農家ではなかったために餓死寸前まで追い込まれた。あの悲しくて情けなかった実事を未だに昨日のことのように忘れることができません。地球は水の惑星といわれますが、人間が使える水は全体の0.02%に過ぎないそうです。今全ての人々がこの0.02%について考える、戦争を回避する手だてを皆で考える、という風潮がわき起こってくれるであろうことを願いつつ、この「世界百名瀑」を制作しました。国連は2005年3月22日から2015年の同日までを『「命のための水」国際行動の10年間』と決めました。国連は水こそ人類の未来を左右する生命線と考えたからに違いありません。全ての生命の源は水です。その水の源流に滝があります。いのちの根源を再発見しあらゆる人々に水について考えてほしいとの願いを込めてこの「世界百名瀑」を撮影した次第です。